ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「ニーナ!」
開けられたドアの向こうは、病室ではなかった。
大きな広間のようで、床がぴかぴかに磨かれている。
その中から、赤い物体が駆け寄ってきた。
「颯!」
赤い物体は、ダッサイ特攻服を着た颯だった。
ああもう、ダサくたっていい。
無事でさえいてくれれば。
……自分が巻き添えにして、誰かを殺したりしたら、今後眠れないもん。
仁菜は心の中の声を、またもやしまいこんだ。
「よかった、本当に無事だったんだな……!」
駆け寄ってきた颯は、ぎゅうと仁菜を抱きしめる。
その腕や胸には、仁菜の知らない筋肉がついていた。
目の前の喉仏は、昔からこんなに出っぱっていたっけ?
「ちょ、颯……」
颯が知らない男の人に思えて、仁菜は慌てる。
自分の中での颯は、まだ子供で、ただの幼なじみで。
最近は、ただのアホなヤンキーだと思っていたのに。
ううん、たぶん今もガキでアホなのは変わらないけれど。
(颯はいつの間にか、『男の人』になってたんだ……)
戸惑いながらも、その背中に手を回そうかどうしようか考えていると、部屋の奥から、少し高い声がした。