ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「それにね、普通の受精卵でも……『女神』の中では成長しなかったんです。
途中で命を落としてしまう胎児ばかりでした」
「どうして……」
遺伝子操作をしない普通の受精卵なら、育ちそうに思えるけど。
「さあ……それはいまだに謎ですが、祖母はある仮説を立てています」
「仮説?」
「母親の愛情がなければ、胎児は育つことができないのではないか、と。
まったく、非科学的ですよね」
カミーユは苦笑した。
非科学的。そうだろう。
愛情なんて、証明できないもの。
母親に望まれずに産まれてくる子だって、たくさんいるはず。
「……俺はなんとなくわかるけど」
「ラス?」
「胎児もさ、声も聞こえない『女神』相手じゃ、元気に生まれるぞーっって気力、なくしちゃうんじゃないかな。
本当のお母さんはどこへ行っちゃったんだろうって、寂しくて、そのストレスで死んじゃうんだよ、きっと」
沈黙が落ちる。
そんなことがあるだろうか?
考えても、誰にもわからない。
それに仁菜は、ラスが風呂でつぶやいた一言が気になっていた。
彼は言った。
母親にいらないと言われた、と。