ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ただ眠るように横たわっている父と母が、そこにいた。
職員が出勤してきたら、両親はデスクに突っ伏すように寝ていたのだという。
二人、手をにぎったまま、横に並んだ椅子に腰かけて。
居眠りにしてはおかしいと思った職員は、すぐに彼らの脈を計った。
その時点ですでに、彼らの息は止まっていたらしい。
「何が起こったのか、すぐには理解できませんでした」
両親のデスクに残されていたのは、毒薬のビンと、遺書のようなメモ書き。
『女神は失敗作です。
すみませんでした』
それだけ?
メモを渡されたカミーユは、呆然とした。
そこには、両親の苦悩も、自分に対する思いも、何も書かれていなかった。
『どうして……?父さん、母さん』
この研究が、自然の仕組みをねじまげて、小さな命を犠牲にするということは、最初からわかっていたはず。
そして父は、ひとりで取り残される悲しみを、知っていたはずなのに……。
『僕に父さんと同じ苦しみを味わえっていうの?
ひどいよ……!』
カミーユが泣いて叫んで、周りの大人たちを困らせたのは、それが最初で最後だったという。
幸い彼は、ひとりになってからも生活に困ることはなかった。
成績の良かったカミーユは、国が保護した施設で、文句の言いようがない待遇を受けることができた。