ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「あたし……カミーユさんをすごく尊敬します。
そんなことがあったのに、ちゃんと前を向いて歩いてこられたんだもの」
ぽつりとこぼすと、カミーユは照れたように頭をかいた。
「や、やだなあ尊敬だなんてやめてください。
僕だってそれなりにやさぐれましたよ。
今は大人なので、なんとか気持ちの整理もつきましたけど」
仁菜にはやさぐれたカミーユが想像つかなかった。
(颯みたいなヤンキー風……ではないだろうな)
優しげな笑みをたたえた瞳は、キレイな翡翠色。
「泣いていても、笑っていても、同じ人生ですもん。
なるべく楽しくすごした方が、得でしょう?」
にこりと笑ったカミーユ。
(……本当だ)
自分はダメだ。悲しい。さみしい。つらい。
そうやってうつうつと過ごすのも、「それでもしょうがないか」って開き直って気楽に過ごすのも、同じ時間。
(あたしは立ち止まって、ずっと悲しんでばかりで……そこから抜け出そうともしなかった)
きっと、考えることも無駄じゃないだろう。
この世で何も考えずに、心から気楽に生きているのなんて、きっと颯くらい。
だけど、そのまま長い暗黒の時代を過ごしても、つまらない。
(あたしも、何か新しい目的を見つけて、気楽にすごしていけたらな……)
それには、もう少し時間と強さが必要な気がした。
(でもきっと……いつか、心の整理がつくよね)
長い話が終わるころ、ラスがシリウスにもたれかかってうとうとしはじめた。
アレクが照明を消すと、間もなく一行の寝息が聞こえ始めた。