ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・守りたいんだ
目に飛び込むのは、灰色のホームに赤い電車。
向かい側のホームの電車が発車した。
自分たちが乗る電車は、もうすぐ到着するみたい。
仁菜はちらりと、横にいる人物を盗み見る。
彼女は今にもホームに飛び込んでしまいそうな……顔は、していなかった。
年相応にシワの刻まれた肌は、かさかさに乾ききっている。
その瞳は、なにも映していないようだった。
ただその表面に塗りたくられた口紅とアイシャドウだけが、不自然に明るく見えた。
女性は、何も話さない。
隣に仁菜がいることさえ、忘れてしまったようだった。
だから、合格発表は一人で行くって言ったのに。
今時ネットでも結果なんて見られるんだから……。
『どうして受からなかったの?
もうお母さん、近所の人にあなたがあの学校を受けるって、言いふらしてしまったのよ。
恥さらし。
役立たず。
あなたなんか、産まなければ良かった』
そう言われると覚悟していたのに。
中学受験に失敗したときは、そう言ってあたしをさんざんなじったじゃない。
ねえ……。
そうしてよ。そうしてくれた方が、楽だよ。
『あたしだって、あんたの子供になんか産まれたくなかった』
って、言い返せるじゃない。