ヤンキー君と異世界に行く。【完】
仁菜は必死で、自分たちの前に盾を呼び出す。
──ガキンッ!
凶刃を、精霊の盾が受け止める。
「颯っ、今のうちに逃げてっ」
「んなことできるわけねえだろ!
俺がいなくなったら、お前なんかすぐにやられちまうよ!」
颯は床に刺さった伝説の剣を抜こうとする。
しかし力任せに振り下ろした剣先は、なかなか抜けない。
「いいからっ……いいから、逃げてっ!
もうもたないよ……!」
仁菜の力が弱いせいだろう。
盾はカフカの刃を受けて、そこから魔力が流れ込んでくる。
守りの力が薄くなっていくのを肌で感じ、仁菜は叫んだ。
颯だけでも、助かってくれれば。
「あたしは、いいよ……!
どうせ生きてたって、いいことなんか、ひとっつも、ないんだから……!」
カミーユの話を聞いて、なんとか前向きに生きなきゃと思っていたけど。
今の時点では、まだ。
あの川に投げ出そうとした、愛せない自分だ。
誰にも認めてもらえない、価値のない命だ。
あのとき手を差し伸べてくれた颯。
(おバカでダサいヤンキーだって、あたしに比べれば、よっぽど価値があるよ)
たった20人のチームだって、総長なんだし。
「あたしがいなくたって誰も困らないけど……っ、
総長がいなくなったら、ヤンキーたちが困るでしょ?」
「アホか……」
颯が振り向いた、と思った。
伝説の剣から、彼の手が離れる。
次の瞬間には、その両腕に抱きしめられていた。