ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「王子に対する無礼は、私が許さぬ!」
──ビシィッ!!
ラスと颯の間に、黒い線が走る。
床を打ちつけた線が持ち主の手の中に返り、初めてそれがムチだったことを知る。
「ラス様も!
落ち着きめされよ!」
その人物がムチを両手でビシイ!とひっぱって見せると、二人とも口を閉ざした。
(……もしかしてここは、V系バンドのスタジオなのっ!?)
仁菜がそう思ったのも無理はない。
ムチを操るその人物は、またもや男だった。
仁菜や颯と同い年くらいのラス。
その10歳は上であろうその男は、紺碧の長い髪を首の後ろで束ねていた。
長く黒いまつげの奥には、アメジストのような瞳。
そしてラスとお揃いのような、青い刺繍の軍服。
しかし彼のそれは、足首まであった。
「だってさあ、シリウス、こいつさあ」
ラスがぶうぶう文句を言おうとするのを、彼は鋭い目線で制した。
「ラス様、一国の王子ともあろうお方がそんなに短気では困ります。
とにかく彼らに事情を説明してやらなければ」
……助かった!
この人、ビジュアルは変だけど、ちゃんとした大人だー!
仁菜はホッと胸をなでおろす。
しかしそれも、たった一瞬のことだった。