ヤンキー君と異世界に行く。【完】
5.離散
・懐かしい夢
ねえ、どうして?
どうして颯は、ヤンキーになったの?
『にーいなっ』
懐かしい声。まだ声変わりしはじめたばかりの、幼い声。
家の前の小さな庭を囲む鉄製の柵が、牢獄に見えていたあの頃。
その隙間から颯がのぞきこんでくれるのを、声をかけてくれるのを、仁菜はずっと待っていた。
『なに?』
でも、待っていたと言うのは恥ずかしいから何気なく答える。
『おばさんはー?』
『パート』
『じゃあ、夜まで帰ってこない?』
『うん』
いつものやりとり。
母親は平日、パートでいない。
学校が振替休日だろうと、仕事に休みはない。
『じゃあ、行こうぜ』
『……うんっ!』
置き去りにされ、ひとりでいた仁菜は、急いで家じゅうのカギをかけたのを確認して、庭の外へ出た。
どこへ行くというわけでもない。
とりあえず、近所のスーパーでお菓子を買って、川辺や公園、児童館なんかを渡り歩く。
同級生に会って冷やかされたりするのが嫌だから、えっちらおっちら歩いて、隣の学区まで行く。
それが二人の定番デートコースだった。