ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「じゃあ、お茶にしましょう!」
白衣の男がパンパンと手を鳴らすと、部屋の奥から、何十人もの黒服の男たちが現れた。
彼らはあっという間に広間の真ん中にテーブルとイスを運び、セッティングする。
その上に、イギリスのアフタヌーンティーを連想させる、サンドイッチやスコーンやケーキを乗せたトレイを置き、仁菜と颯を隣あわせにして座らせる。
その前に花の模様が付いたティーカップが置かれ、温かい紅茶が注がれるのを、2人はぽかんと眺めていた。
こうして丸いテーブルに仁菜、颯、白衣の男、シリウス、ラスと時計回りに座ると、仁菜はあることに気づいた。
白衣の男とシリウスの間に、ひとつ空席があるのを。
「あの……まだ誰か、いらっしゃるんですか?」
仁菜は思う。
たぶん、この人たちはV系バンドだ。
一番華やかなラスがボーカルで、Sっぽいシリウスはギター、大人しそうな白衣の男はベース。
とすると、次に来るのはドラムだ。
ドラムといえば、小太り。間違いない。
「そーいえば、アレクは?」
ラスがシリウスにたずねる。
「『川』を渡ってきた魔族の討伐に向かいました」
シリウスは、低い声でそれに答えた。