ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ラスは返事もせず、仁菜を連れて歩き続けた。
やがて連れ込まれたのは、見知らぬ部屋だった。
天蓋つきのベッドに、豪華な彫刻が施された、白い家具の数々。
足元はふかふかした毛足の長い絨毯で、お香が焚かれているのか、いいにおいがする。
「ラス、ここはどこ?」
「俺の部屋」
そうなの?
仁菜は少し緊張する。
男の子の部屋に入ったことなんか、今までなかったからだ。
そう、あのバカヤンキーの、子供部屋以外は。
もちろんその6畳のくっちゃくちゃの部屋とは違って、ここは広すぎる。
シャンデリアまでついてるし。
それでも男の子と二人きり、という状況が仁菜を緊張させた。
「みんなは?」
「それぞれ忙しいんだ」
聞けば、カミーユは重症患者の回診、アレクは軍隊の仕事、シリウスも雑務がたまっているらしい。
大人って大変。
「そっか……」
「……ごめんね。座って?
お茶を持ってこさせるよ」
ラスがすすめてくれたのは白い丸テーブル脇の椅子で、仁菜がちょこんと腰かけると、すぐに黒服の男が紅茶らしきものを運んできた。