ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(まぞくの……とうば、つ?)
仁菜の頭にハテナが浮かぶ。
業界用語だろうか。意味がわからない。
「手こずってるのかな」
「いえ、彼のことです……噂をすれば、ほら」
白衣の男が部屋の入り口を指すと、その途端大きなドアが開いた。
「すみません王子、遅くなりました」
「…………!」
現れたのは、仁菜が予想していた小太りのドラマーではなく、真紅の髪に、黒い眼帯で左目を隠した、身長2メートルはあろうかという大男。
赤い刺繍がされた黒い軍服は、ラスやシリウスのそれより、明らかに色あせていた。
汚れたものを、何回も洗いざらしたように。
「……ああ、2人とも無事だったのか。よかった」
男は紅の瞳をした右目で仁菜と颯を見下ろす。
シリウスより一段と低い声は、優しさを帯びていた。
彼が空いた席に腰を下ろすと、さっそく颯が口を開く。
「おたくら、いったい誰?ここはどこなんだよ」
「……順に説明しよう」
シリウスが代表して、颯の問いに答えた。