ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ラスに忠誠を誓っている身としては、アレクもカミーユも一緒。
仁菜が王子の花嫁になるように支援することが、ランドミルの仲間内の暗黙の了解だった。
だけど二人とも、だんだんとその決意が揺らぎはじめている。
ラスを支えていきたい思いは確かにある。
だけど、自分が幸せになる=国の繁栄=ラスも幸せになる
ならば、自分たちが仁菜を花嫁にしても問題ないのではないか。
彼らはそう思いはじめていた。
それは、異世界からきた少女が、予想外に彼らの心に入り込んでしまったためだ。
「誰を選ぶかは、仁菜が決めることだ」
アレクの重低音が響く。
「ええ、そうですね。
負けたくないなあ」
カミーユはさらりと、受け流しついでに宣戦布告。
アレクはさらにムッとしたが、黙っておいた。
口でこいつにかなうわけないと思ったから。
早足でラスの部屋へ向かう彼らは、ある曲り角にさしかかった。
「おっと」
突然カミーユが立ち止まり、アレクの腕をつかんだ。
「どうした……」
「しっ」
カミーユは人差し指を唇にあてる。
アレクがそっと角から顔を出すと、その先にあった部屋から、見慣れた影が出てくるのが見えた。
「シリウス……」
青く長い髪を後ろで束ねた、すらりとした後姿は確かにシリウスだ。
彼が城の中を歩き回っているのは当然。
なのだけど……。
「あれは……王妃様のお部屋……ですよね?」
カミーユが声を押さえて言う。