ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(え……笑った?)
シリウスが笑うときといえば、悪巧みしているときくらい(失礼)で、自然な笑顔なんて見たことがない。
そんな彼が、ほんの一瞬だが、目を細め、口の端をあげたような気がした。
端正な顔立ちがほころび、いつもの厳しい表情とのギャップが、仁菜をどきりとさせる。
でも……。
「いつまでもそんなことじゃ困る。
ラス様にはいずれ、独り立ちしてもらわなければ」
その笑顔は記憶に残る前に、すっと消えてしまった。
「しかし、心遣いは感謝して受け取っておく」
無表情でつぶやくと、シリウスは立ち上がる。
もうその足元は、ふらついていなかった。
そして、いつもより少し穏やかな声で、仁菜に話しかける。
「お前は、優しいな。
他の者たちが旅の中でお前に心を開いていった理由がわかる気がした」
「え……っと」
仁菜自身にはさっぱりわからない。
心を開いてもらったなんて、思ったこともなかった。
「他人の痛みをわかってやろうという気持ちが、お前にはある。
この国の女性たちは大事にされすぎて、人の痛みに鈍感だから、余計にそう思うのか……」