ヤンキー君と異世界に行く。【完】
いつになくよく話すシリウスの言葉を、仁菜は黙って聞いていた。
(この国の女の人って、鈍感なの?)
そのところは仁菜にはよくわからなかった。
仁菜はこの国の女性に会ったことがないから。
(でも自分は、シリウスさんが言うようないい子じゃないよ……)
人を嫌ったり恨んだり、さげすんだり嫉妬したり、普通にドロドロした感情だって、たくさん持っている。
何よりそんな自分が嫌いで、自ら命を断とうとしたことを、誰にも話せないでいる。
「……すぐ泣きそうな顔をするな、お前は」
「えっ」
どうして自分が沈んでいることがわかったんだろう。
仁菜は不思議に思うけど、シリウスは冷静に指摘する。
「お前は考えていることがすぐ顔に出る。
そこは直した方がいい。この旅では、命にかかわる」
シリウスは深刻そうな顔で、仁菜に手をのばす。
その髪をすくい上げたかと思うと、ぐっと近くに寄ってきた。
(ち、近い……)
息がかかりそうな距離で見ると、やっぱり端正な顔立ちをしている。
長いまつげの中には、アメジストのような瞳が鋭い光を放っていた。