ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ドキドキした仁菜に、容赦ない一言。
「後ろに寝癖がついてる」
「はうっ」
やっぱりね。この人がチャラチャラしたことするわけないもんね。
また変な勘違いをしそうになった仁菜に、シリウスがそっとささやいた。
「……私に何かあったら、ラス様を頼む。
お前がラス様の力になってくれ」
その声はどこか悲痛な響きが含まれているように思えて、仁菜は顔を上げる。
「な……いったいどういうことですか?やっぱり何かあったんじゃ……」
シリウスはその質問に答えなかった。
その代りに、そっと仁菜を抱きしめる。
突然のことで、仁菜は硬直し、思考停止してしまう。
(あ、あれ……?この状態は?えっと……)
その耳元に、シリウスは小さく「許せ」と囁いた。
くすぐったさに身をよじると、シリウスはそれを許さないと言うように、仁菜の背を壁に押し付けた。
(え……な、なに!?)
仁菜の体から離れたシリウスの手は、一方は壁に、一方は仁菜のあごにかかっている。
くいと持ち上げられると、目の前にはアメジストの瞳。
彼は仁菜との距離を、ゆっくりと狭めていく。
(あっ、あたし、シリウスさんに壁ドンされてる~!?)
『壁ドン』は異世界でも通じるのだろうか?いやそれよりも。
こんなところを誰かに見られたら、あらぬ誤解を招いてしまう。