ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「ハヤテ、やっと動けるようになったばかりなのに、暴れるな!」
仁菜はシリウスに捕まえられたまま、颯の顔を見つめた。
(なんなの?どうして……)
帰ったら他人だなんてひどいことを言ったのに、そんな顔をするの?
仁菜にはわからなかった。
まるで、颯が自分に執着しているように見えて、戸惑う。
「……シリウス。ニーナをはなして」
ラスが静かに、しかし凛とした声で言うと、全員が口を閉じた。
「できません」
シリウスが拒否する。
それは今までなら絶対になかったことで、これからもあってはならなかったことだ。
部屋の空気がひんやりと張りつめていくのを、仁菜は全身で感じていた。
「どうして?
シリウス、お前はニーナが好きなの?」
責めるような口調で、ラスが問う。
「……好きに……なろうとしているのですよ。
彼女は運命の花嫁ですから。
これから私のものになっていただこうと思っていたのです」
シリウスは信じられない言葉を平然とした顔で吐く。
(なにそれ……)
自分のことを今は好きじゃないけど、花嫁にすれば彼が幸福になれるから。そんな予言があるから。
だから、彼は自分を手に入れようとしている。
「そんなの……」
嘘だ。彼はいつだってラスのために行動していた。
シリウスはラスを差し置いて、自分にそんなことを求める人じゃないと、仁菜は思っている。