ヤンキー君と異世界に行く。【完】
たしかにシリウスは頭がいい。
今のところ王位継承権のない、第7王子の参謀でおさまりたくないと思うこともあるかもしれない。
でも、仁菜には目の前で起こっていることが信じられなかった。
「お前っ、ラス様になんてことを……!」
アレクが出ていこうとすると、それより早くラスがつかつかとシリウスに歩み寄った。
そして。
「きゃあっ!」
仁菜の目の前で、ラスがシリウスにこぶしを突き出す。
しかしそれは、シリウスに片手で握りこまれ、止められていた。
「……やれやれ。この程度では、この先の旅で生き残るのは無理でしょうね」
「くっ……!」
ぎり、と二人の手の間で骨がきしむ音がする。
「もうやめて!」
何がなんだかわからないけど、仁菜はとっさにラスにしがみついた。
殴りかかった方のラスが、壊れてしまいそうな顔をしていたから……。
「はなせっ!」
ラスは力任せにこぶしを引っ込めると、仁菜の肩を抱き、シリウスに牙をむいた。
「シリウス……冗談なら、今謝れよ。
そうしたら、許してやるから」
それはいつもの部下に対する口調だったけど、仁菜には他の言葉に聞こえていた。
お願いだから、冗談だと言ってほしい。と……。