ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「……ハヤテ!」
「あー、いてて……おっかしいな、ふさがったはずなのに……」
颯はカミーユに気づくと、汗がにじむ顔でにっと笑う。
「魔族にやられた傷だからですよ!
どうしてあんな重い剣を片手で持つなんて無茶をしたんです!」
やっぱり、この子はバカだ。
カミーユはそう思う。
「だって、その方がかっこいいかなーと思って」
「…………」
「なんだよ、その目。
あいつらやる気になったみたいだし、いーじゃん」
別にどうってことないと言うように、颯は言う。
だけど、カミーユは気づいていた。
砂漠の民たちの前に立った颯の剣を握っていなかった方の手が、かすかに震えていたのを。
いきなり彼らしくない単語を並べて話し出したとき、もしかしてこの子はバカなふりをしているだけで、本当は頭の良い子なのかと思った。
アレクと顔を見合わせ、初めて見る颯の表情に驚いて、声も出せずにいた。
漂っていたのはたしかに勇者の風格で、『総長』という肩書も偽りではなかったと思う。
何人もの人間をまとめていた立場にあったからこそ、ああして声をはりあげることができたのだろう。
……『暴走族』という人種がどんなものなのかは、知らないけれど。