ヤンキー君と異世界に行く。【完】
『あの子の話はしないでちょうだい。
あの子は出来損ないよ。ノアの方がずっと素晴らしいわ』
たしかにノアは人望もあるし、文武両道で評判がいい。
『ラス様が出来損ないだとおっしゃるなら、それは私の責任です。
あの方を教育したのは、私ですから』
『違うわ。私が言っているのは……』
『なんと言われようが、私はそのお話を受けることはできません』
きっぱりと断ると、王妃はわなわなと震えだした。
美しいだけで、他にはなんにもない女。
出来損ないは、お前の方ではないか。
そう言いたいのをこらえ、シリウスは部屋を出ていこうとする。
その背中に、いら立った声がぶつけられた。
『あなたがそういう態度なら、私がラスをつぶすわ!』
『……なんですって?』
思わず振り返ると、王妃はしてやったりという顔で笑った。
『いくらあなたでも、王子を手にかけることはたやすくはないはずです』
『いいえ、やってやるわ。私のノアのために』
シリウスは王妃の目を見つめる。
そこには強い決意の色があった。
『明日の夕方までに、いい返事をちょうだい。
そうすれば、あなたもあの子も、生かしておいてあげるわ』
『……王妃様は非道な行いをする方ではないと、私は信じます』
シリウスはそう言うと、今度こそその場を辞した。