ヤンキー君と異世界に行く。【完】
シリウスが初めて赤ん坊だったラスに会ったのは、10歳のときだった。
シリウスは軍人だった父と、その妻だった母を流行病で亡くし、ひとりきりになった。
それなりに地位のあった両親の子供であったシリウスは行き場をなくし、突然第7王子の世話係として配属される
ことになってしまう。
『うわぁ……』
両親がいなくなってしまった喪失感を一瞬忘れるほど、その赤ん坊は美しかった。
まるで、作り物みたいに。
白磁のような肌に、宝石のようなつぶらな瞳が浮かんでいた。
まだ少なかった産毛は金の糸を埋め込んだようであり、その頬にはほのかな赤みがさしている。
ゆりかごの中のラスをのぞきこむと、彼はぼんやりと視点が定まらないような顔をしていた。
眠いのかな。そう思って、人差し指で小さな手のひらをなでる。
すると、ラスはきゅっとその人差し指をにぎって、ふにゃりと笑った。
まだ歯の生えていない口を開け、「あー」と自分に笑いかける。
その笑顔に、この世の希望がすべてつまっているような、そんな気がした。
その日から、ラスはシリウスの唯一の希望となった。