ヤンキー君と異世界に行く。【完】


『ちぃうちゅ』


ラスが歩き始め、その後に初めて話したのは自分の名前だった。呼べてなかったけど。


『ちぃうちゅ、ごほんよんで』

『ちぃうちゅ、おなかすいた』


ラスは他の乳母よりも、シリウスになついてくれた。


いつもちょこちょことあとをつけて、寝付くまで一緒にいないとしくしくと、それはそれは悲しそうに泣いた。


だからシリウスは、すべての労力と時間を、ラスに捧げてきた。


彼をいつか、立派な王族にする。


それはシリウスの生きがいとなり、自分が『犠牲になっている』とは夢にも思わなかった。


やがて、誰にも認められる美しさと優しさをもった彼は、国民に愛される王子となった。


しかし、家族内での評価は一向に上がらない。


そんななか、彼は王妃が侍女に話しているのを聞いてしまったのだ。


『流行病で死んだ両親の子だから、ラスにもその病がうつって死んでしまえばいいと思ったのに。
二人とも、いまいましいったらありゃしないわ』


その瞬間、シリウスは決めたのだ。


ラスに、輝く栄光を与えてやろうと。


王妃も認めざるを得ない功績をラスに与え、彼を時期国王に押し上げるのだと。


< 241 / 429 >

この作品をシェア

pagetop