ヤンキー君と異世界に行く。【完】
『ちぃうちゅ』
ラスが歩き始め、その後に初めて話したのは自分の名前だった。呼べてなかったけど。
『ちぃうちゅ、ごほんよんで』
『ちぃうちゅ、おなかすいた』
ラスは他の乳母よりも、シリウスになついてくれた。
いつもちょこちょことあとをつけて、寝付くまで一緒にいないとしくしくと、それはそれは悲しそうに泣いた。
だからシリウスは、すべての労力と時間を、ラスに捧げてきた。
彼をいつか、立派な王族にする。
それはシリウスの生きがいとなり、自分が『犠牲になっている』とは夢にも思わなかった。
やがて、誰にも認められる美しさと優しさをもった彼は、国民に愛される王子となった。
しかし、家族内での評価は一向に上がらない。
そんななか、彼は王妃が侍女に話しているのを聞いてしまったのだ。
『流行病で死んだ両親の子だから、ラスにもその病がうつって死んでしまえばいいと思ったのに。
二人とも、いまいましいったらありゃしないわ』
その瞬間、シリウスは決めたのだ。
ラスに、輝く栄光を与えてやろうと。
王妃も認めざるを得ない功績をラスに与え、彼を時期国王に押し上げるのだと。