ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(もし魔族が所持者と認められて、その望みを叶えていたとしたら……)
『神の涙』は、所持者と認められたものの望みを、ひとつだけ叶えてくれるという、伝説の宝石。
そう教えてくれたのは、ここにいないシリウスだった。
そんなことを思い出し、仁菜は胸を痛める。
「……神の涙は、もとはランドミルの王族のものなんですよね?
取り返して、ラスが手に入れれば、所持者と認められるかも……」
「川に捨てられていなければね」
ラスが投げやりにぼそりとつぶやく。
城を抜け出したときから、異世界の時間で約1日が過ぎたと教えてくれたのはアレクだった。
ラスはその間、ずっと機嫌が悪い。
「ラス……」
「宝石の伝説の力なんか、信じていられないよ。
しょせん伝説、なんの根拠もないものだし」
言い捨てると、ラスは座っていたイスから立ち上がった。
「ご飯にしようか。砂漠の民たちだって、おなかすいたんじゃない?」
「うん……そうだね」
「では、炊事場に向かおうか。
仁菜、手伝いを頼めるか?」
同意した仁菜に、アレクが微笑んだ。
「あ、俺も……」
「ハヤテはすこし休め。体が万全でないのだから」
そう言われると、颯は口を閉じた。