ヤンキー君と異世界に行く。【完】
広大な砂漠に、ラスはひとり、ぽつんと座っていた。
軍艦から地上に抜ける階段をのぼり、仁菜は彼に近づく。
「ラス……」
「…………」
「おなかすいたでしょ?
これ、食べてくれない?あたしが作ったの」
勇気を出し、ラスの隣に座る。
ラスは仁菜の手にあるものを見て、質問する。
「なに、これ」
それは、ぶかっこうなおにぎりだった。
アレクに頼み、米っぽいものとノリっぽいものを探して作った、偽もののおにぎり。
こんなものでも、ないよりはマシなんじゃないかと思って、大量に作り、砂漠の民にも配って歩いた。意外に喜ばれた。
「おにぎりっていうの。
あたしたちの世界では、このお米を炊くのにけっこう時間がかかるんだけど、こっちではレンジみたいな機械でチンするだけでできるんだね」
「レンジ……チン……?」
「えーと、マイクロウェーブっていう電磁波であっため……って、そんなことはいいの!ほら、どうぞ?」
残念ながら、具はなかった。塩っぽい味だけの、異世界おにぎり。
ラスはそれをまじまじと見つめ、そっと手にとり、慎重に口に運ぶ。
仁菜はその形のいい唇がおにぎりを食べるのを、見つめていた。