ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「……あれ、意外とおいしい」
意外は余計だけど、ラスはそう言うと、二つのおにぎりをぺろりと平らげた。
「よかった……」
王子様の口に、おにぎりは合うのかという心配ではなくて、先ほどのショックでラスが何も食べられなくなってしまったらどうしようと、心配していた。
そんな仁菜はホッと息をつく。
そして、ラスの口元についた米粒を、指でとって食べた。
「ありがとう」
ラスは照れくさそうに微笑む。
その目の周りは、少しだけ赤くはれていた。
(やっぱり、ひとりで泣いたてたんだね……)
自分も、つらいときはよくひとりで泣いていた。
だから、わかる。
弱い自分は、なるべく人に見せたくない。
「本当に、戻らなくていいの?」
仁菜は単刀直入に聞いた。
「うん……」
ラスはどこか肩の力が抜けたようで、ぼんやりと空を見上げる。
夜空には無数の星がまたたいていた。
「戻らないよ。シリウスのために」
星を見上げたままのラスの声は、落ち着いていた。