ヤンキー君と異世界に行く。【完】
自分に言い聞かせるように、ラスはゆっくりと言葉をつむぐ。
「……えらいね、ラス……」
仁菜は辛かったとき、自分の殻に閉じこもるだけで、なにもできなかったことを思い出した。
なのにラスは、逆境を力に変えようとしている。
砂漠に咲く、一輪のバラみたいに。
「だって俺、王子だよ?
仲間や国民を幸せにしなきゃならないし、砂漠の民たちだって、彼らの故郷に無事に帰してあげなくちゃ。約束したもの」
ふみにじられてもふみにじられても、失わない王族としての誇り。
たぶんそれはシリウスから与えられた一生モノなんだと思うと、うらやましくなる。
だけど……。
「ラス……あのね」
「うん?」
「あたしにだけは、つらいときはつらいって言ってね」
そっとラスの手をにぎると、彼はアクアマリンのような目で、少し驚いたように仁菜を見つめた。
「あたしも、つらいとき、あったよ。
でも、聞いてくれるひとがいなくて……
自分はまだ大丈夫、まだ大丈夫って言い聞かせるうちに、戻れなくなってたの」
「ニーナ……」
「あたし、自分なんか死んでしまえばいいと思ってた」
ハッと、ラスが息を飲む静かな音がした。
軽蔑されてもいい。
ちゃんと伝えようと、仁菜は決める。