ヤンキー君と異世界に行く。【完】
それは、16年前のこと。
ちょうど、カミーユの両親が亡くなる少し前のことだった。
研究中だった『女神』に、ひとつの受精卵が送り込まれてきた。
「それが俺。
王の遺伝子と、王妃の遺伝子の結合体の、ちっちゃな卵子だった」
肉眼では見えないそれは、すぐに『女神』の胎内へと埋め込まれることに。
無事に着床したその受精卵が、ラスのはじまりだった。
「王妃もさ、俺の前に6人子供を産んでるっていうのは前に言ったよね。
だからいい加減、女の子がほしかったんだよ。どうしても」
たぶん、周囲からの重たい期待や圧力もあったんだろうね、とラスはさらりと言った。
「そんで俺、胎児のときの記憶があるんだけどさ……」
ぽかんとして何も言えない仁菜。
ラスはかまわず、話を続ける。
「女神ってさ、外から観察できるように、透明の素材でできてるんだ。
俺は中から、外の様子を見てた。話も全部、聞いてた」
ラスが続けた言葉は、仁菜には信じがたいことだった。
普通ならば、人類の性別は受精した瞬間に決まっている。
それは仁菜の世界でも、異世界でも同じらしい。
ラスは受精卵の時点で、男児の遺伝子を持っていることが判明してしまう。
それでも王妃は研究者たちに、ラスを女児にすることをしつこく強要した。
「体中にたくさん針を刺されたこともあった。
様々や薬品の投与に、遺伝子操作による副作用……
苦しかった。何回も死にそうになったよ」