ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「そんな俺の前に現れたのが、シリウスだった」
シリウスは初めて、自分を見てくれた。
そして優しい顔で微笑みながら、そっと自分に触れたのだ。
この指を離すまいと、ラスは必死で彼の指をにぎった。
「その瞬間から、俺の記憶は飛んでるんだよ」
「飛んでるって?」
「ニーナは赤ちゃんのときのことって覚えてる?
俺は一番古い記憶でも、せいぜい5歳くらいのときの記憶しかない。
つまり、シリウスに会って、俺は普通の赤ちゃんとして生まれ変われたんだと思う」
一度リセットされたラスの人生。
全てをシリウスにゆだね、共にここまで歩んできた。
しかし、成長すると、胎児のときの記憶が甦ってラスを悩ませた。
王妃には相変わらず毛嫌いされているし、兄にも父にも、自然に産まれなかった自分はいつも差別されている。
遺伝子操作で産まれた、役立たずのただの美しい人形。
そう陰口を叩かれるのに耐え切れなくて、シリウスに苛立ちをぶつけたこともあった。
だけどシリウスは厳しさの中にも愛情を持って、自分に接してくれた。
「シリウスは俺にとって、たった一人の家族なんだ……」
ラスは星空を見上げる。
きっと、ラスにとってシリウスは、あの星みたいなものだったんだろう。
彼は、先の見えない暗闇を照らしてくれる、道しるべだったんだ。
仁菜は胸が熱くなるのを感じていた。