ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ラスの顔が、急に距離をつめた。
よける暇もなかった。
気づけば、軽くなぞるように、ラスの唇が仁菜の唇に触れていた。
それはたしかにあたたかくて、彼が本当に生きた人間なのだということを教えてくれる。
「……ニーナだけは、好きだよ」
唇を離されて、ラスがそっとささやいて、初めて。
仁菜は自分に起こったことを、理解した。
(い、今のってキス……!?)
思わず自分の口元を押さえる。
そして、まだ耳にこだまするラスの言葉を反すうした。
(す、好きって……)
パニックになりかけた仁菜を見て、ラスが微笑む。
「好きだよ、ニーナ。
優しくて一生懸命で不器用な、キミが大好き」
念を押すように言われて、ドキドキと胸が高鳴る。
「本当は今すぐ俺の花嫁になってほしいけど、無理強いはいやだから……。
前向きに検討してくれると嬉しいな」
ラスは言うと、一瞬だけ仁菜をきゅっと抱きしめ、すぐに離す。
だけど、手だけはまだにぎられていた。
「……びっくりさせちゃったかな。ごめんね。
でも俺、本気だから」
「ラス……」
「ふふ、真っ赤な顔。ずっと見ていたいけど……先に戻ってて。すぐに俺も行くから」
「あ、うん……」
「本当にありがとう。
ニーナがいてくれれば、俺は大丈夫だって気がするよ」
ラスはいつもどおりのキレイな顔で、にこりと笑う。
仁菜は黙ってうなずくと、その場から逃げるように走り去った。