ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(どうかしたのかな……)
颯の雰囲気が、いつもと違う。
いつもおバカな言動で周りを呆れさせたりしたけど、結局はそんな能天気な颯が、つらい旅を明るく保ってくれていた。
なのに、今は何もおバカな発言をしそうにない。
そういえば、なんとなくぎくしゃくした雰囲気のまま、旅が再開されてしまったんだった。
思い出すと、気が重たくなる。
忙しくすごしているうちに、いつの間にか元通りの関係に戻っていることを、どこかで期待していたのかもしれない。
子供の頃は、一日寝ればいつもどおりにできたのに。
「あの……どうしたの?」
沈黙に耐え切れなくて、自分から口を開く。
すると颯は、いつになく真剣な目で、仁菜を見つめる。
「昨夜……、ラスと何があったんだよ」
どきりとする。
「なにも……落ち着くまで、話をしていただけ」
何もないといえば、何もない。
ラスと仁菜の関係は何も変わっていない。
「……ウソ、つくんだな」
ぼそりとつぶやく声。
ハッと顔を上げると、颯は少し寂しそうな顔をしていた。
そんなふうに見えた。
「俺、見たんだけど」
見た……って、まさか。
仁菜の胸が、痛いくらいに跳ね上がる。
「……ラスのこと、好きなのか?」
やっぱり、そうだ。見られていたんだ。
仁菜は顔が熱くなるのを感じた。