ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「…………」
それだけのことが言えずにいると、壁際にいた仁菜に、颯がにらむようにしながら、つかつかと歩みよる。
「ほら、またぼーっとする」
あっという間に目の前にきて、颯は仁菜を見下ろす。
気づけばその両手は、仁菜の両耳の横につけられていた。
「……颯……?」
追いつめられた獲物のような仁菜は、真剣な目をした颯を見つめる。
すると颯は視線をそらさず、まっすぐに言った。
「俺は、お前が好きだ」
「…………え………?」
今、なんて言ったの?
問う前に、颯は一言。
「ラスには渡さない」
そう言うと、ぐいと顔を近づける。
あっと思ったときにはもう、口をふさがれていた。
颯の、熱い唇で……。
「んう……っ」
ラスの優しいキスとは違う、強引で荒々しいそれは、仁菜の胸をかき乱す。
ぎゅっと噛みしめた歯列をムリに開かせようとするそれは、自分勝手以外の何物にも思えなかった。
(こんなの、やだ……!)
───パァン!
大きな音が、天井に反響した。
颯が離れた一瞬をつき、仁菜はその頬を、思い切り打ったのだ。
ほとんど、無意識だった。