ヤンキー君と異世界に行く。【完】
颯は今なら、戦いが激化する前に境界の川に飛び込んでしまえば……。
元の世界に、帰れるのかもしれない。
「元の世界がどうなってるのかわかんねぇけど……同時に存在してるってことは、それなりにあっちでも時間が流れてるんじゃないかと思う。
きっと俺たちがいなくなって、周りの人間は心配してる」
「…………」
「だから……あいつらとの約束を果たしたら、俺と一緒に元の世界に帰ろう」
だんだんと颯の声は、穏やかな響きに変わっていった。
とくんとくんと、仁菜の胸は鼓動を打ち続ける。
(颯……ウソじゃないんだね)
彼は本気で、好きだと言ってくれている。
幼いころ、大好きだった颯。
仁菜のために、その命さえ盾にしてくれようとした、颯。
その颯が……。
体の中を、あたたかい感情がぐるぐると巡る。
(うれしい)
遅いけれど、素直にそう思えた。だけど……。
「あたし……元の世界なんか、帰りたくないよ……」
たしかに周りは、それなりに心配しているかもしれない。
だけど、帰っても待っているのは、あのつまらない世界だ。
息がつまりそうで、何も楽しいことなんかない、あの世界……。