ヤンキー君と異世界に行く。【完】



仁菜は迷う。


トリップしてしまった当初は冗談じゃないと思った。
早く帰りたいと、思っていたかもしれない。


だけどいつの間にか、異世界の仲間たちのことが好きになって、元の世界がますます色あせたものに見えている。


あそこには……なにも、ない。


執着したいほど、大切なものなんか、なにも。


(それに颯は、「帰ったら他人」なんて、言ったじゃない……)


心に残るわだかまりは、まだ解けない。


「大丈夫だって……お前は、強いよ。

一度は挫折したかもしれねえけど、今はこんなにみんなのために、必死になって生きてるじゃねえか」


「颯……」


「だから……きっと、元の世界でも、探しさえすれば、必死になれることがあるはずなんだ。

それに、俺がいる。

お前がつらいときは、俺が支えるから……」


颯はカフカから守ったときのように、優しく仁菜を抱きしめる。


頭を抱き寄せられて、仁菜はその言葉を、耳元で聞いた。


「だから、誰のものにもなるな。

俺のものになれよ……」


口調は俺様なのに、その声はまるで、懇願しているみたいだった。


仁菜は嗚咽を抑えきれなくなり、颯の胸の中で泣いた。



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