ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・届かなくて
さんざんな一日が終れば、また朝が来る。
一行は再び歩き出す。
今度はラスもカミーユと共に先頭へ立ち、アレクが最後尾を守る。
仁菜は真ん中にいて、その何歩か先を、颯が歩いていた。
颯は昨日のことなんか何もなかったかのように、長老の孫(兄の方)と話をしている。
「キミの種族はどんなものだい?」
「もちろん、暴走族だよ」
違う。ただの日本人でしょ。
「ボウソウ族?」
「あっちの世界で一番強くて渋いんだよ、暴走族は」
そんなに強くないし、ダサイってば。
「どんな仕事をして生きてるんだい?」
「うーん……世の中の矛盾に立ち向かってる」
あんたの発言が矛盾だらけだってば。
(つっこめないのって、意外につらい……)
颯はいつものおバカな颯で、へらへら談笑して笑っている。
(もしかして、白昼夢だったのかな?)
昨日のことが突然すぎて、仁菜はそんなふうに思う。
(そうだったらいいのに)
なんの前触れもなく、壊れてしまった二人の関係。
まだ唇に残る、キスのリアルな感触。
思い出すだけで泣きそうなのに、当の本人は全部忘れてしまったみたいにふるまっていて、仁菜はムカついた。
今世紀最大のムカつきだと思った。