ヤンキー君と異世界に行く。【完】


しかし、その剣が振り下ろされる瞬間……


「その子に触るなああああぁぁっ!」


高い叫び声がして、仁菜は胸にかけた石をにぎりしめたまま、そちらを向いてしまう。


「王子か……!」


にやりと笑うカフカに、ラスが斬りかかってくる。


仁菜はその瞬間、とっさに足元の砂を握りしめ、カフカの顔に思い切り投げつけた。


「ちっ……!」


カフカは目を押さえ、ラスのレイピアをなんとかかわすと、何歩か後退した。


「颯、剣を……!」

「おう、ありがとなラス!」


颯が、先ほど飛ばされた剣を拾いに行く。


ラスが仁菜をかばうように前に立つと、カフカが怒鳴った。


「何度も何度も何度も、俺の邪魔をしやがって……!

お前ら、全員ぶっ殺す!」


片目をつぶったまま、カフカは剣をかまえる。


その全身から、黒い湯気が立ち上っているように、仁菜には見えた。


カフカは全身の力を剣にこめ、ゆっくりと天に向けて持ち上げる。


「まずい……!」


ラスが言った瞬間、その剣は黒い一線を描き、地上へと振り下ろされた。


(な……っ!)


仁菜は思わず目を閉じてしまった。


カフカが剣を振り下ろしただけで起こった風圧が、砂漠の砂を巻き込み、二人を襲う。


< 292 / 429 >

この作品をシェア

pagetop