ヤンキー君と異世界に行く。【完】
しかし、その剣が振り下ろされる瞬間……
「その子に触るなああああぁぁっ!」
高い叫び声がして、仁菜は胸にかけた石をにぎりしめたまま、そちらを向いてしまう。
「王子か……!」
にやりと笑うカフカに、ラスが斬りかかってくる。
仁菜はその瞬間、とっさに足元の砂を握りしめ、カフカの顔に思い切り投げつけた。
「ちっ……!」
カフカは目を押さえ、ラスのレイピアをなんとかかわすと、何歩か後退した。
「颯、剣を……!」
「おう、ありがとなラス!」
颯が、先ほど飛ばされた剣を拾いに行く。
ラスが仁菜をかばうように前に立つと、カフカが怒鳴った。
「何度も何度も何度も、俺の邪魔をしやがって……!
お前ら、全員ぶっ殺す!」
片目をつぶったまま、カフカは剣をかまえる。
その全身から、黒い湯気が立ち上っているように、仁菜には見えた。
カフカは全身の力を剣にこめ、ゆっくりと天に向けて持ち上げる。
「まずい……!」
ラスが言った瞬間、その剣は黒い一線を描き、地上へと振り下ろされた。
(な……っ!)
仁菜は思わず目を閉じてしまった。
カフカが剣を振り下ろしただけで起こった風圧が、砂漠の砂を巻き込み、二人を襲う。