ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(シリウスさん、無事だったんだ!)
ラスは声こそ出さなかったが、シリウスの腕の中で肩を震わせていた。
(よかったね、ラス……)
ほっとしたかから、思わず涙腺がゆるんで、体中の力が抜けた。
そのときだった。
「どこまでも俺様をコケにしやがって……!」
すぐ近くで地獄の底から響くような恐ろしい声を聞き、仁菜は振りむく。
砂煙の中から現れたのは、カフカだった。
その剣はまっすぐ、仁菜に向けられている……。
しまった、と思ったのは一瞬だった。
ビュオ、と空間を切り裂くような音がして、その剣が右から左へ、大きくなぎ払われる。
仁菜が目をつぶる間もなかった。
その目前に、横からきた風が、彼女の前に立ちはだかった。
「あ……っ!」
すべてが、スローモーションのように見えた。
なぎ払われたカフカの剣を、仁菜の前に出た颯が、代わりに受けた。
そのすさまじい衝撃に、颯の伝説の剣ははじかれ、宙に舞う。
ギイイイインと鋼が共鳴する音の中、剣の持ち主もまた、同じように振り払われてしまった。
「はや……」
彼の名を呼ぶより先に、その体は地の裂け目へと、落ちていってしまう。
思わず駆け寄って手をのばすが、仁菜の指は、そのつま先にも届かなかった。