ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「颯!」
目を開いたとき、一番に颯の名を呼んだのは、彼が聞きなれた声だった。
何度か瞬きをすると、声の主の顔がだんだんとはっきりと見えてきた。
「え……おかん?」
そこにいたのは、まぎれもなく颯の母親だった。
歳のわりには茶色すぎる髪と、濃いメイクにつけまつげをつけた派手な彼女は、心配そうにのぞきこむ。
そして颯が目を開けたのを見ると、涙をこぼしながら彼の首に抱きついた。
「颯!よかった~!」
「ぐえっ!」
「おい、そんな怪力で締めたら、颯が死んじまうぞー」
母親の後ろから笑顔で言ったのは、颯の父親だ。
まるでプロレスラーのような体格で、今時角刈りの彼は、がははと笑った。
「オヤジ!」
颯は母親を押しのけ、周りを見回す。
広がる風景は、自分が生まれ育ってきた世界のものだった。
普通の病室に、普通の点滴の針とルート。
聞きなれた日本語が飛び交い、大部屋だからか女性看護師が何人もいったりきたりする。
「ここは……地球?日本か?」
颯が問うと、父親は笑うのをやめ、心配そうな顔をした。
「当たり前だろ?
去年じーちゃんが肺炎で入院した病院だよ。
やっぱり川を流れるうちに、頭を打ったのか……」