ヤンキー君と異世界に行く。【完】
『でも、じゃないの!
仁菜はね、私立の中学を受験するの。
あなたみたいな発情期の男の子に近くにいられると、迷惑なのよ!』
発情期って。
犬みたいに言われて、颯のプライドは傷つく。
でも、反論はできない。
そう言われれば本当にそうだと思ったから。
『仁菜は、いい大学に行って、一流の人と結婚するんだから……
あなたみたいな、そのへんの車屋の息子に、絶対触らせない』
『…………』
一昔前のドラマみたいな台詞だったけど、仁菜の母は真剣に話しているようだった。
その顔には、鬼気迫るものがある。
『仁菜は、私みたいにはさせない。
こんなみじめな思いは、絶対にさせない』
颯は黙って、仁菜の母親の目を見つめる。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
眉毛だけ描いた、かさかさの顔。
ぱさぱさして、根元が真っ黒い髪。
疲れ切った表情。
『仁菜は絶対に、幸せになるの』
そのすべてが、仁菜を守ろうとしているのがわかった。
彼女は彼女なりに苦労していて、周りと自分を比べて、『こんなみじめな思い』をしているのだと思っているのだろう。
詳しいことは何もわからなかったが、同じくらいの歳の自分の母親は、父親とも仲が良く、もっとはつらつとしている。
見た目にも気を使っているし、たまには友達と旅行に行ったりする。
だけど、仁菜の母親からは、そういった余裕というものが、どこにも感じられなかった。