ヤンキー君と異世界に行く。【完】
きっと彼女は、「もっとお金持ちと結婚していれば……」と思っているのだろう。
それをもう自分ではかなわないから、娘に、実践させようとしている。
いや、自分の思い通りにすれば、娘は必ず幸せになれると思い込んでいるようだった。
颯はなんとなく、そう感じた。
『……一流の人って、なんですか。
頭がよくて、お金持ちって意味ですか』
むかむかする胸を押さえて聞くと、母親は『そうだ』とあっさりうなずく。
『でも、俺の母は幸せそうです。
父は頭より体を動かす方が得意な人で、お金もそんなにたくさんないけど……
俺の母は、いつだって笑っています』
父はくだらない冗談ばかり言う。
車とバイクのこと以外は、なにも知らない。
そんな父を経理や事務面で支えているのが母で、家事も抱えてそれなりに苦労しているように颯には見える。
でも彼女は、いつも笑っていた。
家の中の太陽みたいに。
だから、幸せは地位とかお金とかに比例するものじゃないんじゃないか。
たしかにそれは生きていくうえでとても大事だろうけど、それだけじゃない気がする。
そういうことを言いたかったのに、仁菜の母親はこう吐き捨てた。
『……それは、あなたのお母さんもバカだからじゃないの?』