ヤンキー君と異世界に行く。【完】
だけど、目の前の憐れな女性をなじる気にはなれなかった。
憔悴しきった顔は、たしかに娘を心配する、母親の顔だったのだから。
「……おばさん。俺、ニーナのいるところを知っています」
気づけば、口先がそんなことを言っていた。
目を見開く仁菜の両親。
「やっぱり、あなたが……!」
つかみかかりそうになる母親を、父親が止める。
「違います。
ニーナは自分の意志で……今、ある場所にいます。
それはすぐ近くで、でも、普段は絶対に行けないところで……」
川に飛び込もうと思ったことは、言わないでおいた。
きっとそんなことはもう察して、さんざん後悔しただろうから。
「それはどこなの?」
まさか異世界と言って信じてもらえるわけもない。
颯は迷うが、やがて口を開く。
「……おばさん、俺にチャンスをください」
「……?」
「俺が、必ず仁菜を連れて帰ってきます。
約束します。
無事に、連れて帰ってきます。
だから」
母親は不審に思う気持ちをあらわにしていたが、なんとか颯の話を冷静に聞こうとしているようだった。
颯は思い切って、頭を下げる。
深く、深く。
「だから……今度こそ、あいつのそばにいてやってください。
あいつのこと、見てやってください。
責めないで、抱きしめてやってください」