ヤンキー君と異世界に行く。【完】
一気に吐き出すと、ゆっくりと頭を上げる。
そこには、ぽろぽろと涙を流す仁菜の母親がいた。
「そんなの……あなたに言われなくても、わかってるわよ!
今すぐ抱きしめたいの。たくさん、あやまりたいことがあるの。
お願いだから、仁菜を連れて帰ってきて……!」
そのあとは悲鳴になってしまって聞こえなかった。
少し心配になったけれど、仁菜の父親が彼女を支え、颯に向かって大きくうなずいてくれた。
それだけで、颯のひっかかりが一つ消える。
(俺は、ニーナを連れて帰ってきていいんだ)
もしかしたら、仁菜のためには連れ帰らない方がいいかもと思っていた。
意外に異世界に順応しているし、あっちなら女性は無条件で大事にされる。
(だけど……お前のために泣いてくれる人がここにいるんだよ、ニーナ)
早く、仁菜のもとへ帰ろう。
そう決めた颯は、川辺をのぞきこむ。
ゆらゆらと、自分の顔が水面で歪んだ。
(ちゃんと行ける……よな?)
ごくりと唾を飲み込んだ瞬間、水面に白い何かがうつったのが見えて、颯はハッと振り向く。
そこでは、白い剣がゆらゆらと空中に浮かんでいた。