ヤンキー君と異世界に行く。【完】
仁菜は、自室に戻ってシャワーを浴びる。
水は貴重だから、あまり使わないように言われているけれど。
(知らないもん!ラスのバカ!)
颯があの恐ろしく高い崖から落ちてしまったというのに、ラスときたらシリウスが戻ってきたのが嬉しくて、彼の顔をみるたびにやけている。
(そりゃあ、たった一人の家族みたいな人だもんね。
嬉しいのはわかるけど、あたしが気を使ってたのはなんだったの?)
シリウスは監視の隙をつき、命からがらバイクを奪って逃走してきたらしい。
彼が戻ってきてくれたのは仁菜も嬉しいけど、それとこれとは別。
(あたしのことが好きだって、言ったのに)
ラスの言葉を思い出すと、むかむかする。
ウソではなかったとは思うけれど、あの告白にドキドキした自分はなんだったのか。
(結局、一番はシリウスさんじゃない)
比べる次元がおかしいとは思う。
シリウスは男で、家族で、親友みたいなもの。仁菜は女の子で、恋愛対象のはず。
だけど、だけど。
(ラスがこんなに単純に、ううん、こんなに早く回復してくれるってわかってたら、あたし……)
颯の告白に、素直に答えられていたかもしれないのに。