ヤンキー君と異世界に行く。【完】
結局自分に自信がないから、彼らの美辞麗句を素直に受け取ることができない。
それは彼らが悪いのではなくて、それを受け止めるだけの覚悟が、自分にないから。
自分を認めてほしいと言いながら、実はどこかでそれを恐れていたのだと、仁菜は気づく。
認められたら、その期待に応えるだけの努力を、し続けなければいけないから。
でもそれが、この人たちの通ってきた道だ。
つらくても苦しくても、『理想の自分』に近づこうと、傷だらけになりながら努力した結果、彼らはうらやましいほど強い人間になった。
(あたしが、あたしを、自分自身でつまらない人間にしていたんだ)
ただ黙ってうつむいているだけの仁菜に、誰かが近づいた。
視界に入った靴の先で、それがシリウスのものだと、仁菜は気づく。
「ニーナ」
ラスを守るためだけの右手が、仁菜の頭にそっと触れた。
「すまないな……お前にこんな選択をさせるなど、本当は誰もしたくはないんだ」
顔を上げる。
そこには、今までとは違うシリウスの顔がある。
「ここにいる誰もがお前のことを想っている。
できれば、お前が心から想う男と幸せになってほしいと思っている」
今まで国のために、ラスのために、ぴんとはりつめた糸みたいだったシリウス。
彼がゆっくり話すのを、仁菜は初めて聞いていた。