ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「けれど……時間がないんだ。
形だけでも、神の前で誓いの言葉を交わす。
そして一度でも夜をともにすれば、天は二人を夫婦と認めてくださる」
「……偽装……ってことですか……?」
女の子にとって、なんて残酷なことを言うのだろう。
形だけでも、なんて。
仁菜の目頭が熱くなる。
「お前がそう思うのならばそうだ。
しかし、お前が受け入れてくれるのであれば、ここにいる全員が、お前を全力で守り、愛していくことを誓う」
「………」
「すべてが終わったあと、そのまま夫婦でいつづけるのも、別れるのも、お前の自由だ」
シリウスは、そっと仁菜を頭ごと自分の胸に引き寄せる。
「すまない……お前には、酷なことばかり頼んでいるな」
わかっているなら、もうやめてよ。
「ラス様の力になってくれて、ありがとう。
心から感謝している」
そんな言葉いらない。望んでない。
涙が落ちるのをこらえていると、体が震える。
そんな仁菜の背中を、優しくさする手があった。
「ニーナ、ごめんね。
でもね」
この声は、ラスだ。
「どうするかは、ニーナに任せるよ。
ニーナがどうしても嫌だって言うんなら、無理強いはしない。
俺がみんなに命令するよ」
ラスは仁菜の背中から、彼女の肩をシリウスごと抱きしめる。