ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ラスは悩む。
このままでは、祖国が危ない。
けれどあそこには敵ばかりで、自分の一番大事な者の命すら、奪おうとした。
だけど、捨てきれないものがある。
それは彼の国民だ。
王族である限り、国民の命を最優先に考えて行動すべきだと、シリウスに教えられてきた。
それが、自分の義務なのだと。
(帰って、戦う?)
けれど、その戦いの先に、いったい何があるというのだろう。
仲間たちの血が流されるだけではないのか。
それに、砂漠の民たちをこんな状態のまま置いていくこともできないし、連れていくこともできない。
(最後の望みをかけて、逃げ切れるところまで逃げる?)
血にまみれた、暗黒の時代がおとずれる。
それでも、命が続く限り、生き続けることだけを望むか。
なかなか決断を下せないラス。
そんな彼に、背後から甲高い声がかかった。
「なに迷ってるの!」
驚いて、そちらを振り向く。
軍艦からの出口。
そこに立っていたのは、ラスの軍服を着て、茶色がかっていた髪を、あごの下で短く切ってしまった、
仁菜だった。