ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「ぐだぐだ言ってないで、戦おう、ラス!」
仁菜は力強く言うと、仲間、そして砂漠の民たちに語りかける。
「ねえ、何か忘れていない?
異世界の勇者がいないからって、絶望にうちひしがれているんだとしたら、こっちを見て。
まだ、あたしが残ってるじゃない!」
砂漠の民たちは、顔を上げる。
すると、仁菜の胸にかけていた石が光る。
ピンク色の光の中から現れたのは、精霊の盾ではなかった。
「それは、伝説の剣……」
シリウスがつぶやく。
仁菜は真面目な顔で、それに手をのばす。
赤い柄を握りしめ、砂の上に突き刺した。
「……ごめんなさい、みんな。
あたしは、誰の花嫁にもならない」
仁菜の言葉を、仲間たちは静かに聞いていた。
(これが、あたしの出した結論だから)
少し考えてはみたものの、どうしても颯への気持ちを捨てきれないまま、他の人の花嫁になんかなれない。
ならば。
(これが、あたしの選んだ未来だから)
自分の価値を見つけてくれた、大好きな仲間たちのためにできることをするしかない。
仁菜は深呼吸すると、自分に言い聞かせるように言った。
「あたしが、颯の代わりになる。
あたしが、勇者になる!」