ヤンキー君と異世界に行く。【完】
精霊族はもともと、戦闘に長けた種族。
泉を襲われた時に魔族の恐ろしさを思い知っているから、今度は油断しないはずだ。
「そして、ラスはあたしと魔界へ行こう。
あれだけの魔族がランドミルへ向かったなら、魔界は手薄になっているはず。
風の樹の実を手に入れて、すぐに帰るの」
奪われた秘宝、『神の涙』も気になるところだけど、あれは小さいうえにどこにあるか見当がつかない。
仁菜の予想が正しければ、あれはカフカが隠してしまったか、力の強い者が持っているだろう。
危険を冒してそれを探すより、確実に効果のある方を選びたい。
「シリウスさんは……本当はあたしたちについてきてほしいけれど……」
仁菜は言いよどむ。
シリウスは、拷問を受けた際に体中に深い傷を負っている。
それだけではなく、『石』を破壊されているがゆえ、魔法も使えないし、武器は拳銃ひとつ。
それでも、反逆者の烙印を頬に抱えたままランドミルに返すわけにはいかない。
迷っていると、シリウスが仁菜の肩に手を置いた。
「ならば、ついていこう。
お前が望み、ラス様が行かれるなら、私もともに歩むまで」
シリウスが微笑む。
何も心配しないでいいと言うように。