ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「さて、私たちも行くとしよう」
シリウスが異世界バイクを起動する。
境界の川、その上の地の裂け目に彼らはいるのだが、そこは不気味なくらい静まり返っていた。
(全員ランドミルへ帰ったと思ってくれてたらいいんだけど……)
実際、それが魔族の狙いだったのだろうと、仁菜は推測する。
自分たちの領土から仁菜たちを遠ざけるため、あれだけ派手にランドミルへ向かったのではないか。
「じゃあ順番に……。まずはラス様」
異世界バイクは二人乗りのため、シリウスが順番に仁菜とラスを魔界側に送っていくことに。
ラスはいつものようにシリウスの背中にくっつき、難なくあちらがわへ到着した。
(ここで綱渡りしろなんて言われたら、早速くじけるところだった……)
仁菜は伝説の剣を胸の宝石にしまい、シリウスが戻ってくるのを待っていた。
その間、どうしても地の裂け目を見てしまう。
(颯……これでいいんだよね?)
誰かの花嫁になることが、一番楽な道だったかもしれない。
なのに、自分は一番過酷な道を選んでしまった。
颯への想いを、貫くために。
(うん。いいんだ、これで)
いつかまた会えるときがきっとくる。
そのときに、胸をはった自分でいたいから。
(行ってくるね、颯)