ヤンキー君と異世界に行く。【完】
シリウスの後ろに乗り、仁菜はその体にしがみつく。
ふわりとバイクが浮かび、地の裂け目の上を通る。
ラスが、あちら側で待っていてくれるのを見て、顔を下げないようにしていた。
もう少しで、魔界へ入る。
そう思ったとき……。
「ああん?お前らだけ、なんで残ってんだよ?」
ぞくりと、背中があわだつ。
「しかも何勝手に、人様の領土へ入ってきてんだ?人間」
カフカだ。
思うと同時、バイクがぐわりと揺れた。
魔界の森の木々の枝が、バイクに絡みついていたのだ。
その木の上に、カフカは立っていた。
「やめろ!」
ラスが怒鳴り、レイピアを取り出す。
「ちっ!」
シリウスが拳銃を取り出し、絡まった木の根を撃とうとした。
「バーカ、そんなもんぶっ放したら、乗り物が壊れるだけだぜ?」
右へ左へと揺さぶられ、仁菜は必死でシリウスにしがみつく。
「やめろって言ってるだろ!」
ラスが木の枝を飛びながらカフカに向かい、レイピアを投げつける。
「おっと」
カフカがそれを避けると、バイクから枝が離れていった。
シリウスはそのすきに、急いで地の裂け目を渡る。
助かったと思い、少し腕をゆるめた瞬間だった。
仁菜の体が、がくりと後ろに引っ張られる。
「ニーナ!」
シリウスが叫ぶ。
バイクは前輪だけを魔界の地につけたまま、後輪を崖の下から伸びてきたツタのような植物に絡めとられていた。