ヤンキー君と異世界に行く。【完】
落ちる――。
自分の体が重力に負けて、バイクから離れていく。
シリウスが手を伸ばしてくれたのが、最後に見えた。
恐怖に自然とまぶたが閉じ、気を失いかけた瞬間。
ざぶりと、頭の後ろで水が跳ねる音がした。
(え……っ)
頬に水滴がぱたぱたと落ちる感覚と共に、グイと肩を引かれる。
「目を開けろ、ニーナ!」
強く響く声が聞こえると、反射的にまぶたが開いた。
「あ……っ!」
ぐい、と腕を引っ張られた仁菜は見た。
白いジャージのダサいヤンキーが、自分の手をつかんでいるのを。
彼はビヨーンとわけのわからないハネが付いた愛車にまたがっていた。
「はや……っ」
名前を最後まで呼ぶ前に、ヤンキーバイクは魔界に着地する。
うるさいエンジン音と、タイヤが地面をこする音が鼓膜を刺す。
地面に投げ出され、ぶざまに転んだ仁菜は、すぐに顔を上げた。
「な、な、なんで……!?」
なんだかよくわからないけれど、自分の下から、ヤンキーバイクが飛んできた。
今、そこから白いジャージのヤンキーが降りて、自分に駆け寄ってくる。
すべてのことが信じられなくて、声も出ない仁菜。