ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「良かった……颯、生きてたんだね」
ぎゅうと抱きつくと、颯は珍しく困ったような声を出す。
「……えっと……ニーナ、そんなことされると、俺様調子にのっちまうけど?」
颯の手が、おそるおそるというように、ゆっくり自分の背中に回される。
うれしくて、だけどまだ信じられなくて、仁菜は颯の体をさらに強く抱きしめた。
颯がここにいるのを、たしかめるように。
言葉が出なくて、ただ泣きじゃくる。
颯はそんな仁菜の髪をなでながら、小さく息をついた。
「そうか、そんなに俺様に会いたかったか……」
冗談ぽく言い、腕の力に力を込める。
仁菜の耳に、彼の早い鼓動がとくとくと聞こえた。
「おい、俺を無視してイチャイチャするんじゃねぇ!」
木の上から、全身に鳥肌を立てたカフカが叫ぶ。
二人の様子を見守っていたラスとシリウスが、彼をじっとりとにらんだ。
「邪魔しちゃ悪いとか思わないのかな?
ねぇシリウス」
「まったく……気がきかない魔族ですね」
「うるせぇ!
全員ここでぶっ殺して……」
二人に言われてキレかけたカフカが、突然黙り、背後を振り返る。
「……魔王様が呼んでいる……。
昼寝からお目覚めか」
え?魔王、この非常事態に昼寝してるの?
「お前ら、後で見つけてやるからな!
首を洗って待っていやがれ!」
カフカはそう言うと、あっという間に姿を消してしまった。