ヤンキー君と異世界に行く。【完】


「良かった……颯、生きてたんだね」


ぎゅうと抱きつくと、颯は珍しく困ったような声を出す。


「……えっと……ニーナ、そんなことされると、俺様調子にのっちまうけど?」


颯の手が、おそるおそるというように、ゆっくり自分の背中に回される。


うれしくて、だけどまだ信じられなくて、仁菜は颯の体をさらに強く抱きしめた。


颯がここにいるのを、たしかめるように。


言葉が出なくて、ただ泣きじゃくる。


颯はそんな仁菜の髪をなでながら、小さく息をついた。


「そうか、そんなに俺様に会いたかったか……」


冗談ぽく言い、腕の力に力を込める。


仁菜の耳に、彼の早い鼓動がとくとくと聞こえた。


「おい、俺を無視してイチャイチャするんじゃねぇ!」


木の上から、全身に鳥肌を立てたカフカが叫ぶ。


二人の様子を見守っていたラスとシリウスが、彼をじっとりとにらんだ。


「邪魔しちゃ悪いとか思わないのかな?
ねぇシリウス」

「まったく……気がきかない魔族ですね」

「うるせぇ!
全員ここでぶっ殺して……」


二人に言われてキレかけたカフカが、突然黙り、背後を振り返る。


「……魔王様が呼んでいる……。
昼寝からお目覚めか」


え?魔王、この非常事態に昼寝してるの?

「お前ら、後で見つけてやるからな!
首を洗って待っていやがれ!」


カフカはそう言うと、あっという間に姿を消してしまった。






< 354 / 429 >

この作品をシェア

pagetop